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東京高等裁判所 昭和62年(ラ)287号 決定 1987年8月20日

抗告人 株式会社秀和

主文

原決定を取り消す。

本件不動産引渡命令の申立てを棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状記載のとおりである。

そこで検討するに、本件不動産引渡命令は原裁判所昭和五九年(ケ)第四九号不動産競売事件について発せられたものであるところ、右競売事件の記録によれば、(1) 競売物件たる建物(以下「本件建物」という。)及び土地共有持分については、所有者のインターワールド通信機工業株式会社により株式会社三井銀行のために昭和五一年七月一日根抵当権が設定され、同年八月一〇日その旨の登記がされたこと、(2) 本件建物については昭和五二年五月一六日付で神田税務署による差押えの登記がされたこと、(3) 株式会社三井銀行は、(1) の根抵当権に基づいて本件競売申立てをし、昭和五九年六月八日の競売開始決定に基づいて同月一三日差押えの登記がされたこと、(4) 原審裁判所は、債権者株式会社三井銀行の申請に基づき、同年一一月二一日前記各競売物件につき担保権の実行としての競売を続行する旨の決定をし、これに基づいて競売手続が進められた結果、昭和六二年一月三〇日株式会社越後屋に対する右各物件の売却を許可する旨の決定が言い渡されて確定し、右買受人は買受代金を納付したこと、(5) この間において、前記税務署長から前記差押えにかかる国税の徴収事務を引き継いだ東京国税局長は、配当要求の終期と定められた昭和六〇年四月八日までに原裁判所に交付要求書を提出したこと、(6) 本件建物には昭和五三年七月二六日付でサンフオード株式会社を賃借人とする存続期間満三年、譲渡・転貸ができる旨の特約付の賃借権設定仮登記が、昭和五四年二月六日付で金城幸子こと岩城百江を転借人とする期間満三年(昭和五七年一月末日まで)、譲渡・転貸ができる旨の特約付の前記賃借権に基づく転貸の仮登記がそれぞれなされていること、(7) 昭和六〇年二月に執行官が現況調査を行つた際には、右岩城百江の夫である金城康祐の経営する抗告人(当時の商号は株式会社丸和土建)が本件建物を占有しており、抗告人から岩城百江との間の建物賃貸借契約書(期間昭和五九年三月一日から昭和六二年二月末日まで、賃料一か月四万円、三年分前払済み、譲渡・転貸ができる旨の特約付)の呈示があつたこと、以上の事実が認められる。

以上のような事実関係の下において、抗告人は、自らが本件競売開始決定による差押の効力発生前から賃借権に基づき本件建物を占有している者に当たるとして本件不動産引渡命令の違法を主張するところ、滞納処分と民事執行による競売とは、もともと異種別個の手続であるが、ともに目的物件を強制的に換価してその代金から債権の満足を得ることを目的とし、両手続による差押えが競合する場合に一方の手続により換価、配当が行われると、他方の手続の債権者は、あるいは当然に、あるいは交付要求を通じて、その権利の実体法上の順位に従つて配当を受けることができ(国税徴収法八二条、一二九条、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律一七条、六条)、一方の手続で換価が完了すると他方の手続も終了する(同法一六条、三二条等)のであつて、両手続は右のような意味で目的を共通にし、一方が他方を代替する関係にある。このような両手続の関係に照らすと、両手続が競合する場合において、一方の手続により換価が完了したときは、他方の手続も、とくに抵触するところがない限り、それ自体としての手続が進行終了したものとみることはできるが、異種別個の手続であることから、一方の手続により生じた効果の一部のみをとり上げて、他方の手続上の効果とすることはできないものといわなければならない。

ところで、本件についてみると、抗告人は、前記税務署による差押えの登記ののちに本件建物を再転借した者であるのみならず、右再転借権の基盤であるサンフオード株式会社の原賃借権、岩城百江の転借権もいずれも右差押えの登記ののちに仮登記を経由したものであるから、抗告人としては、いずれ滞納処分による公売の結果本件建物を明け渡さなければならないことを予期していたはずではあるが、公売手続においては、競売手続における不動産引渡命令のような簡易な方法で目的不動産の占有を買受人に取得させる制度はなく、他方競売手続についてみれば、抗告人が占有を開始したのは競売手続における差押の効力発生前であるから、当然には引渡命令発付の要件を充足するものではない。したがつて、引渡命令を認めることなく、買受人に通常の法的手段による明渡を求めさせることとしても、抗告人にその予期した以上の利益を与えることになるわけではないし、買受人に本来受けるべき以上の不利益を与えるわけでもなく、また、先行の滞納処分による差押えによつて把握された目的不動産の交換価値の一部を実質上逸出させることになるわけでもない。

そうすると、不動産引渡命令発付の要件に関しては、先行する滞納処分による差押えを競売手続による差押えと同視すべき理由はなく、前記再転貸は、その内容や当事者から見て、契約書どおりの内容のものとは容易には認め難いけれども、抗告人が転借人岩城百江の転借権を基盤とする何らかの占有権原に基づいて本件建物を占有する者であることは否定し難いから、抗告人については民事執行法八三条一項所定の不動産引渡命令の相手方としての要件が充足されないこととなる。

よつて、抗告人に対して発せられた本件不動産引渡命令は失当であるから、これを取り消したうえ相手方の右命令の申立てを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 裁判官 河合治夫)

別紙 執行抗告状

抗告の趣旨

原決定を取り消し引渡命令の申し立てを却下とする裁判を求める

抗告の理由

原審がなした不動産引渡命令は違法である、なぜならば抗告人は差押えの効力発生前からもと所有者との間の賃借権により本件物件を占有しているもので、前記賃借権が短期賃貸借であつて、其の期間が差押え後経過したときも、もと所有者において賃貸借契約の更新を拒絶した事実も認められないからもと所有者に対しては期間が更新されたものとして前記賃貸借を主張し得るものといわざるを得ず、前記期間の更新を買受人たる相手方には対抗し得ないとしても抗告人は民事執行法八三条一項本文にいう「差押えの効力発生前から権原により本件物件を占有している者」に当たる。よつて原決定は違法であつて申立を却下すべきである。なを同じ事案として短期賃借権者に対する引渡命令の申し立てを却下した事例

〔大阪高裁昭和五九年(ラ)第二五六号〕

〔大阪高裁昭和五九年(ラ)第二〇五号〕

がある。

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